水月夜
私は、千尋が苦しそうな顔をしているのを見るだけで心が痛くなるんだ。


口を閉じて目で訴えるが、千尋はなにかを決心したかのような顔をして私に視線を向けた。


視界に映る千尋の目は強い決意が宿っている感じがする。


千尋、やめて。


千尋自身のために、理由を言うのはやめて。


しかし、私の心からの願いが叶うことはなく、千尋が口を開けておそるおそる言葉を吐きだした。


「今から私が言うことは信じられないかもしれないけど……聞いてね」


本題に入るのかとヒヤヒヤしたが、聞いてほしいという言葉を聞いて少しほっとした。


だがほっとしたのもつかの間、千尋が私の反応をスルーして言葉を続けた。


「1週間ほど前……私が学校を休んだ日は遠くの街に住んでたおばあちゃんの葬式だったの。親に無理やり葬式に連れられたから、仕方なく学校を休んだんだ。でもお母さんは学校に体調不良だって言っちゃったからびっくりしたの」


「……そうなんだ」


休んだ日は、千尋のおばあさんの葬式だった。


千尋が学校を休んだ理由はわかった。
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