水月夜
それとも、私の偏見だろうか。


偏見か偏見じゃないかはともかく、千尋の表情が暗いのは一目瞭然だ。


黙って千尋を見つめる私に、千尋は両手で頭を抱えはじめた。


いったいどうしたんだろう。


こんな千尋を今まで見たことがない。


少し焦る私を尻目に、千尋の口が再び開いた。


「おばあちゃんの形見だって言われて渡されたものを受け取った日から、常に誰かに見られてる気配がして。怖くて……でも、おばあちゃんの形見だと思ってから手放せなかった」


「…………」


「夜も眠れなくなった。毎日、監視されてるような気がして怖かった。ただの絵のはずなのに、不気味だと思ったのははじめてだよ」


その言葉が耳に届いた瞬間、目を飛び出さんばかりに見開いて千尋に顔を近づけた。


今、なんて言った?


『ただの絵のはずなのに、不気味だと思ったのははじめてだよ』


『絵』という単語が引っかかる。


しかも『不気味』。


普通の絵なら監視されている気がするのは気のせいだと言えたが、言えるわけがなかった。
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