水月夜
もし私がここで大きな声を出して笑ったら、そのあとの直美の反応が想像できるから。


あまり信用していないとはいえ、親友に嫌われたら、いじめのターゲットになりかねない。


そうなったらヒロエと紀子は私を助けてくれないだろう。


『あんたが直美のこと笑ったからこうなったの』


『まさに自業自得ってやつね』


私がなにかしくじったときにふたりが言う言葉は想像できる。


もともと直美に優しく接していたふたりが手のひらを返すことようなことをするわけがない。


口を手でふさいで直美のうしろ姿から目をそらすと、ふたりが気づかないうちに背を向けてカバンを取りに教室に戻る。


いいな、直美は。


好きな人がいて、ヒロエと紀子に優しくされて。


あまり信頼はしていないけど、そういうところは心の底から羨ましいと思う。


私とはまるで天と地ほどの差だよ。


誰かを好きになったことは一度もないし、ヒロエと紀子には雑に扱われるし。


褒められたことがあるとすれば、他の生徒から『容姿が整ってる』と言われたことと『頭もいいし運動神経もいい』と言われたことくらい。
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