水月夜
いったいなにが起こったのかさっぱりわからない私を尻目に、直美のうしろについていたヒロエと紀子が無言で直美のもとに行った。


どうして直美は、昨日私がキーホルダーつきのカバンを持ってきてくれたことをわざわざここで言ったんだろう。


やっぱり直美はなにを考えているかわからない。


呆然とする私に、千尋が不思議そうな顔で私の顔を覗き込んできた。


「梨沙、“あれ”ってなに?」


今の会話は千尋にもまる聞こえだったようだ。


昨日教室で拾ったものを言えば、千尋は絶対に誰のものかたしかめようとする。


そうなれば、直美の餌食となる可能性がある。


阻止しなければ。


「な、なんだったんだろうね。私にはわからなかったよ」


額やこめかみに冷や汗を浮かべながら小さくつぶやく。


つまらなさそうに「なーんだ」と頬を膨らませる千尋。


そんな千尋に、コソッと耳打ちをした。


「今日の帰り、私の家に寄らない?」


あまりにも突然の私の言葉に、千尋がまたもや目を見開く。


でも、私が家に誘う理由を理解していたようで、千尋は迷うことなくうなずいた。
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