水月夜
だって、視界に映った千尋の姿が最後に見たときよりひどい状態になっていたから。


きれいにセットされた髪はボサボサになっており、真っ白なブラウスと靴下が汚れ、片手に持っているローファーまでもが濡れている。


昨日雨が降ったから、残った水たまりを誤って踏んでしまったのかもしれない。


靴下の汚れとローファーの濡れかげんが水たまりのせいだとしたらうなずけるが、頭とブラウスについてはいまだにわからない。


首をかしげる私に、千尋が答えを教えてくれた。


「じつは、弥生のカバンを捨てたっていう会話が耳に入ってきて、必死に探したの。だけどどこにもなくて。気づいたらこんなボロボロに……」


自分がボサボサとなったことはここに来る前に理解していたらしい。


そうか、千尋は今まで豊洲さんのカバンを探してたんだ。


帰ってこない間に豊洲さんのカバンを探していたのなら、その髪も……。


「もしかして、その頭は……」


「うん、弥生のカバンを探したせい。カバンが焼却炉にあるかもと思って頭を突っ込んだら、髪がボサボサになっちゃった」
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