水月夜
そう言ってポンポンと彼の肩を叩いたのは千尋だった。


私の代わりに言いたいことを言おうと思っているのだろう。


「もしその絵が暗くて不気味に見えたら災いが降りかかるって梨沙が話したよね? その絵を見て暗いと思ったら、雨宮くんはその絵が嫌いだっていう証拠で、奇妙な出来事が起きるかもしれないよ」


「えっ……」


驚きの言葉を口にする雨宮くん。


しかし、『奇妙な出来事が起きるかもしれない』という言葉で冷静さを取り戻した。


「そんなうまい話、あるわけないだろ。奇妙な出来事っていったってただの怪奇現象的なものが起きるだけなんだろ?」


さっきの千尋の言葉をまったく信用していない雨宮くんだが、千尋の表情は変わらなかった。


ただちょっと震えを強くさせている。


「違うよ。『水月夜』の話を聞いたときは同じことを思ったけど、『水月夜』を飾った日の夜からずっとかなしばりに遭ってるの」


「えっ⁉︎」


そんな話は聞いたことがない。


『水月夜』を壁に飾りつけているけど、かなしばりに遭ったことはない。


「ほ、本当⁉︎ かなしばりに遭ったの⁉︎」
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