水月夜
「うん。でもかなしばりだけじゃないの」


どういうこと?


眉間にシワを寄せた私に気づいたのか、千尋は話を続ける。


「朝になると暗くて不気味な絵の風景が変わってたり、帰ってくると部屋のものが散乱したり。さらにお風呂に入ったときに必ず浴室の電気が消えたり。お風呂に入る時間は誰もいないから、お風呂に入るのが怖くなって。一番怖かったのは夜の部屋に真っ白な手がふよふよ浮いてたことだったな」


ちょっと待って、話がついていけない。


たしかに絵の風景は豊洲さんが直美にいじめられる日の朝に変わっていた。


でも、絵が変わったのはそれっきりだ。


部屋の家具が散乱してたり浴室の電気が消えたり真っ白な手が部屋に浮いてたなんてこと、私の周りでは起こらなかった。


同じ絵が部屋に飾ってあるのに、違いはいったいなんなの?


うーん、と考え込む私に、千尋の話を黙って聞いていた雨宮くんが疑いの目を向けた。


「その話、夢で見たものじゃねぇの?」
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