水月夜
疑わしげに見つめてくる雨宮くんに、さらに焦りを見せる千尋。


「違うってば! じゃあ見せてあげようか。私、それぞれスマホで撮ったから!」


『それぞれスマホで撮った』って、まさか……。


言葉を口にする前に、千尋がポケットからスマホを取りだし、画面を私と雨宮くんに見せた。


スマホをいじる前にスリープモードにしていたようで、すぐにアルバム画面が表示された。


そのアルバムの中に、日づけが今日に近い写真を見つけ、眺めるように見つめる。


1枚目は壁に飾られた絵の写真。


絵のタッチからして間違いなく『水月夜』だが、不気味な印象は見受けられない。


2枚目は畳が敷きつめられた部屋に家具や小物が散乱した写真。


よく見ると手前側の畳に血文字で『呪』という字が浮かびあがっている。


次は浴室の電気が消えた瞬間を連写モードで写した数枚の写真。


写真の背景から、撮影した千尋本人は本当に浴室に入っていたようだ。


最後はどこになにがあるかわからないほど、真っ暗な写真。


しかし、その写真の真ん中に細くて真っ白な右手が写っていた。


食い入るように見つめる私に、雨宮くんは呆然としている。


「マジかよ……こんなことあるのかよ……」
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