水月夜
私たちふたりの反応をしっかりと見ながら、千尋がスマホを入れていたところに戻した。


「どう? これでただの怪奇現象じゃないってわかったでしょ?」


若干不機嫌な顔の千尋が吐いた言葉は雨宮くんに向けられたもののはずだが、なぜか私にも向けられている気がする。


気のせいかな。


顔をあげて『水月夜』を見つめる。


この絵を飾った日から奇妙な出来事が起こっても不思議じゃないのに、なんで私の周りではほとんどなにも起こらないの?


もしかしたらこの絵、ガンサクなんじゃ……。


睨むような目つきになったとき、突然千尋がカバンを持って部屋を出た。


「千尋⁉︎」


「帰るね、用は済んだし!」


「大丈夫なの? 家まで送るよ」


「いいって、私の家近いから!」


私の返事も聞かずに千尋が出ていった。


あ然として半開きになったドアを見つめる私に、雨宮くんが心配そうな顔で体を私に近づけた。


「猪狩、大丈夫かな……」


そんな声が聞こえたと同時に、体が私にピタッとくっついた。


近いよ、雨宮くん!
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