水月夜
これ以上体を私に近づけたら心臓が持たないよ。


どうしてこんなに体を近づけてくるの?


頭をフル回転させて考えていると、雨宮くんの体がスッと離れて距離が少し遠くなった。


そのことにほっと胸を撫でおろす。


気づかれないように雨宮くんのうしろにまわり込み、背中に言葉を浴びせる。


「あ、雨宮くんも帰ったら? もう遅いでしょ?」


背を向けていた雨宮くんがこちらに体を向け、驚いた顔を見せる。


表情からして、頭の中で私がまったく違う言葉をかけるのではないかと考えていたらしい。


でも『帰ったほうがいいよ』って言われる以外に、他にどんな言葉があるの?


不思議でたまらない。


と、突然、雨宮くんがゆっくりとこちらに近寄ってきた。


私と雨宮くんとの距離を15センチほどになったとき、肩に手が置かれる。


いったいなにをするつもりなの?


心臓がバクバクとうるさくなっていく。


覚悟してギュッと目を閉じたそのとき、玄関からお母さんの声が聞こえてきた。
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