ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「どうしてそんなことを……」

 意図がわからず、私は不安に顔を強張らせつつ問いかける。西留さんは目を伏せ、険しい面持ちになった。

「……常務には、ずっと想っている女性がいらっしゃったので」

 その言葉に、胸がどきりと音を立てる。

 颯馬さんに好きな人が? もしかして――。

 私は瞠目して西留さんを見つめた。

「残念ながら私ではありません。以前お聞きしたときに、その人は社内の人ではなく、結婚も難しい相手だとおっしゃっていました」

 社内の人じゃなくて、結婚も難しい相手?

 予想は外れていたけれど、知られざる事実の連続に、全身の血が冷えわたって心臓は波打っていく。

「だから、どうしてあなたとご結婚されたのか。誰でもよかったなら――」

 語尾を濁した西留さんは、綺麗な顔をぎゅっとしかめる。その表情を見て私はなにか言おうとするが、言えなかった。
< 102 / 175 >

この作品をシェア

pagetop