ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 颯馬さん。本当は好きな人がいたけれど、その人と結婚できないから都合の良い相手を探していたんだ。いくら親の決めた縁談が嫌だからといっても、ここまでする? とは思っていたが、半分ヤケになっていたのかな。

 颯馬さんにとったら、その人じゃないなら誰でも同じなんだ。

 エレベーターから降りてリビングのドアを開ける。一ヶ月にも満たないが、一緒に生活した部屋。窓から差し込む光に照らされた空間を見て、ずきんと胸が痛んだ。

 どうしてこんなに苦しいのだろう。喉が狭くなったように息がしづらい。颯馬さんは、最初から形だけの妻を手に入れたいと言っていたじゃない。煩わしいのは御免だって。拒絶しないって言ったのも、別に私のことを好きになるという意味じゃない。

 わかっている。わかっていたはずなのに。私はいったいなにを期待していたんだろう。

「……どうしよう」

 鼓動がひと際大きくなる。

 私、いつの間にか颯馬さんのことを好きになっていたんだ。

 自覚すると、その感情は再び閉じ込めることなどできないくらいに私の中に溢れ出した。
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