ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 
「ただいま」

「……おかえりなさい。今日は早かったですね」

 玄関のドアが開く音がして、私は仕事から帰ってきた颯馬さんを出迎えた。カバンを預かると、颯馬さんは「ありがとう」と目もとにしわを寄せて微笑む。

 今朝の西留さんの言葉が頭を過り、私は心臓が掴まれたような心地になった。

「そうだ。今日は助かったよ。ありがとう」

 脱いだコートをソファーの背もたれに置いた颯馬さんが言う。私が笑顔を作りながら「いえ……」と返すと、彼の片方の眉が一瞬小さく動いた。

「ご飯急いで温めますね」

 うまく笑えていないのかも。そう思った私は、颯馬さんのカバンを置いて慌ててキッチンへと向かった。

 しかし、

「小春」

 呼び止められ、足を止める。
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