ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 絶対集中できないと思うんだけれど。現に私は先ほどから、颯馬さんと同じ部屋にいるだけでやっている番組の内容などまったく頭に入ってこない。ソファーもこんなに広いのに、よりによってどうして隣に座るのだろう。

「邪魔になるとダメなんで、私部屋に行きますね」と言っても、「一緒にいたい」と言われてしまうし……。

 心を殺すと決めたのに。颯馬さんの言葉に、いちいち期待して胸が弾んでしまう自分が憎らしい。

 気づかれぬようにため息をついた。すると、オルゴールのような音が耳に届き、私はその聞き覚えのあるメロディーを追う。

「このコマーシャル……」

 画面には、雪の中、真っ白なノースリーブワンピースを着た綺麗な女性が映っていた。

 この人、ここ数年映画やドラマで活躍している女優さんだ。

 女性がコンパクトを開くと、衣装や景色が彩りのあるものに変わっていく。しかし、女性が空を見上げると、温かに見える世界に再び雪だけが舞い落ちてきた。

『常識なんて知らない。私の表情で、私の世界は変わる』

 女性がきっぱりと言い放つ。人は違っていえど、そのフレーズに私は確信した。
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