ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「颯馬さん!」

 颯馬さんが私を抱き上げ、自身の膝の上に乗せる。下から見上げられ、その顔の近さに私は身体を仰け反らせた。しかし彼の手が私の腰もとをしっかりと支えていて、逃げられない。

「君はなにもかもひとりで頑張りすぎるんだ。我慢はすることがあたり前じゃない。無理をすればいつかは絶対に綻びるし、心が追いつかなくなってくる」

「私、無理なんか――」

 かあっと熱を持った顔を両手で覆った。

「気づいていないから怖いんだ。だいたい、人のために上司に楯突いたりはできるのに、自分のことになると危うすぎる。こうしてそばで見ていないと、いつでもどこかへ消えてしまいそうだ」

 言い終えた颯馬さんが、私の手の甲に口付ける。その声色がどこか切なくて、私はゆっくりと手を落とした。

「颯馬、さん……?」

 やっぱり知っていたんだ。私が会社を辞めた理由も。じゃあ、どうして隠していたのだろう。そんな疑問が頭に浮かぶけれど、
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