ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~

「この度は、御社のご厚情に感謝申し上げます。ご紹介いただいたおかげで、無事になんとかなりました。今後我が社でお力になれることがあればいつでもご相談ください。今度改めてお礼をさせていただきます。はい。ではまた……」

 電話を置き、椅子の背もたれに深く身体を預けながらふーっと肩で息をする。わずかにネクタイを緩めていると、ドアをノックする音がして「常務。西留です」と声がした。

「入れ」

 俺が告げると、コーヒーの乗ったトレーを手に入ってきた西留が、「お疲れ様です」とカップをデスクの上に置く。

「助かった。ありがとう」

 そう言って口をつけると、出社してからほぼ丸一日対応に追われ、徹夜明けの身体に温かさが染み渡った。ほっと緊張が解けて、眉と眉のあいだが開く。彼女はトレーを胸もとに抱え、その様子を眺めていた。
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