ニセモノ夫婦～契約結婚ですが旦那様から甘く求められています～

　私は混乱する。それをわかっているのか、颯馬さんがふっと笑みをこぼすのが聞こえてきた。

「西留から聞いたんだろ。俺が社外に思いを寄せてる人がいるって」

　私が答えに悩んでいると、颯馬さんは「大丈夫。全部聞いたから」と穏やかな声色で告げる。

「実は、二年ほど前にも見合いの話を持ちかけられたことがあったんだ」

　颯馬さんが、おもむろに話し出した。

「父は西留や高田を使ってしつこく勧めてきて、当時、俺は自分がいつか結婚するならと色々考えていた。そんなとき、一度会っただけの女性のことがふと頭に浮かんだんだ」

　すると、颯馬さんが私の肩を持って自分の方へ向かせる。視線が絡み合った。優しく微笑む彼に、心臓が大きく跳ねる。

「小春。君だ。正直そのときはまだ俺自身も自覚はなかった。はじめて会ったときから好感を持っていたのは確かだったけど」

「ちょっと待ってください。はじめて会ったときって……」

　唐突すぎて事態が飲み込めない。私は目を白黒させつつ、颯馬さんを見上げた。