ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「本当にすまなかった。あの夜も、俺ははじめから君に会いに行ったんだ」

 ――えっ? あの夜って、私たちが契約を交わしたあの日?

「小春が突然契約を解除されたと噂で聞いていてもたってもいられなくて。驚くだろうとわかっていても、とりあえず足はあの店に向かっていた。でも、あの日行って心からよかったと思う」

 ゆるりと口角を上げた颯馬さんが、私の手を取った。彼はそれを自身の頬にあててから愛おしそうにキスを落とす。

「君を守ることができたかな」

 言い終えた颯馬さんが、困ったような笑顔を向けた。

「颯馬さん……」

 胸がぎゅっと締めつけられる。

「どうして、ずっと……」

 泣きそうな衝動を飲み込むと言葉に詰まった。それでもなにを言いたかったのか颯馬さんには伝わったようで、彼はおもむろに口を開く。
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