ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「好きだ。小春。俺は君を愛している」

 一段と甘く告げられる。

「……本当ですか?」

 私の声は、こらえきれなくなった涙のせいで震えていた。ふっと微笑みを浮かべた颯馬さんが、私を抱きしめる。

「あぁ。小春のことが好きだ。本当にどうして契約を交わす前に伝えておかなかったのかと死ぬほど後悔したよ」

 全身が限りない喜びに満ちた。

「颯馬さん。ここ、外です」

 突然面映ゆくなり言うけれど、彼は「関係ない」と離してはくれなかった。私は言葉と矛盾して心が嬉しい気持ちに温かくなるのがわかる。

 自分のあまのじゃくさに呆れつつも、あきらめて私は颯馬さんの胸もとにそっと額を寄せた。

 幸せだ。湧き上がる愛情に終わりがない。父へ感じる穏やかなものとは違う。ときに悲しく、苦しい。落ちつくひまがないのに、決してこの想いを手放したくはなかった。
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