ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 私はいたたまれなくなって顔を手で覆おうとするが、その前に颯馬さんの唇が私の唇に触れた。ちゅっと軽い音を立てて離れる。

「たまに社内で見かける度に、どうやって話そうとか、食事に誘おうとか、いつも考えてたんだ。でも今はここにいる。そして、俺の妻だ」

 噛みしめるように言う颯馬さんが、恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべた。私はそのあまりの美しさに戸惑いながらも、弱々しい面持ちで恐る恐る問い掛けた。

「私、颯馬さんの本当の奥さんになっていいんですか? 心の中に踏み込んで、好きでいても……」

「あぁ。本物の夫婦になっていこう。これから、一生かけて」

 その答えを聞いて、また涙ぐみそうになる。

「好きです。私も颯馬さんのことが大好きです」

 できる限り心を込めて伝えた。すると、颯馬さんは芯から嬉しそうに目尻を垂らしてから、困り顔になった。

 ――んっ?

 不思議に思いきょとんと見つめていると、

「あー……もう我慢できない」

 私を抱き上げた颯馬さんが、突然どこかへ向かって歩き出す。
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