ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 ひとりになると、途方もない恥ずかしさに足が竦んだ。落ち着かず、私もあとを追うようにリビングへと向かう。

「なんの用だ」

 颯馬さんがモニター越しに鋭く言い放つのが聞こえてきて、私は思わず気圧されて肩を揺らした。

『申し訳ございません。勝手ながら、お話させていただきたくて参りました』

 機械越しの少しくぐもった音声が耳に届く。そこに映っていたのは、西留さんだった。

「話なら明日社で聞く。今日は帰れ」

「颯馬さん……!」

 私は慌てて颯馬さんのもとへ駆け寄る。私に気づいた彼は、いささか驚いたように目を丸めていた。

『常務。お願いいたします』

「私からもお願いします。話を聞いてあげてください」

 颯馬さんの腕にすがりついて懇願した。眉根を寄せる彼に、痛いほどの視線を送る。

「……っ、今開ける」

 そう告げた颯馬さんが、ロックを解除した。
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