ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「いえ。大丈夫です。西留さんも誤解されていたのは、わかっていますから」

 西留さんが悪いわけではない。私があんなにも惑わされたのは、私が颯馬さんを好きだったからだ。そして、西留さんも颯馬さんを想っていた。勘違いしていたなら、つい彼女が私にあんな口ぶりをしたくなった気持ちもわからなくはない。

 先ほど私も身に染みて実感した。恋をすると、自分が自分でいられなくなる。もがいて、あがいて、ときになりふりかまわなくなってしまうのだ。それでもこうしてここに来た西留さんを、私は敬服せずにはいられなかった。

 私はそっと口もとを綻ばせる。一瞬驚いたように瞠目した西留さんは、顔を険しくしかめてから、おもむろに話し出した。

「私は自分の仕事に誇りを持っていました。常務のお役に立つことが生きがいで、尊敬するあなたに認めていただくために今日まで頑張ってきました。それなのに……」

 西留さんが、悔しそうに唇を曲げる。
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