ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「私はいつからか、本来の目的を忘れていました。それでこうして……常務を失望させてしまう結果に。今後、秘書室長と相談して担当を変えていただきます。今一度、秘書としてやり直したいんです。そのことをお許しいただけませんか? 私はこの誇りを失いたくない……」

「颯馬さん……」

 無表情で西留さんを見つめる颯馬さんに、私は堪らずせがむような眼差しを注いだ。

「仕事とプライベートを切り替えられないなど秘書として失格だ。その上さらに自分の都合で周りを振り回す気か?」

 颯馬さんは尖り声で言う。そして、

「西留。自分のミスは仕事で取り返せ。逃げるなんて許さないからな」

 厳しい口調で活を入れた。

 驚きと感動で言葉を失った西留さんが、勢いよく頭を下げる。

「ありがとうございます」

 彼女のひどく震えた声に、私も瞳に安堵の色を滲ませた。

 ……颯馬さん。

 視線がぶつかると、颯馬さんはどこか照れくさそうに顔を背けた。

 本当によかった。
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