ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「す、すみません……!」

 慌てて謝るけれど、私はすぐに絶句した。私を見る颯馬さんの目がどこか困ったように、悲しげに揺れていたからだ。

 ひと際大きく鼓動が高鳴る。

 どうしてそんな顔……。

 膝の上に置いていた手を強く握りしめた。颯馬さんは身体ごとこちらに向き直る。

「怖がらなくていい。俺は、君の嫌がることはしない」

 囁くように告げられた。

「あなたは……」

 先ほど飲み込んだ質問が口をついて出そうになる。それがわかっているかのように、颯馬さんは「なに?」とわざとらしく小首を傾げた。

 首を左右に何度も振る。けれど彼は、「いいから」と追求をやめてはくれない。

「小春の思うことを教えてくれ」

 口調こそ柔らかだけれど、そこには有無を言わせぬ強さが秘められていた。私は顔をゆがめて抵抗する。しかし、

「言って」

 やはりあきらめる様子のない颯馬さんに根負けした私は、目を伏せつつも意を決して口を開いた。
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