ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「どうしてそんなに優しくするんですか? 私のことなんて無視してくれればいいのに。颯馬さんの好きなように生活して、必要なときだけ利用すれば――」

「小春」

 颯馬さんが私を優しく咎める。そして、眉を少し上げてうら寂しげに笑った。

「あんなふうに連れてきたから、怖い思いをさせていたな。さっきの外出のこともそうだが、別に俺は君を奴隷にしたいわけじゃない。煩わしいのが嫌だとは言ったけど、君を拒絶するつもりもないから。安心していい」

 私は「えっ……」と一驚する。

「普通に暮らせればと思ってる。お互いに関心がないから、きっと揉めることもないだろう」

 しかし、その言葉になぜか胸がチリッと痛んだ。わずかに弾んだ心が、今度は深い穴の底に落ちていくよう。

「……そう、ですね」

 私はぎこちなく笑いながらそう返した。

 不器用な私とは違い、颯馬さんはちゃんと線引きをしている。だからこそ優しくできるのだ。彼にとって、私はこれからもずっと無関心な存在だから。

『関心がないから』

 なんてやるせない気持ちになるのだろう。
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