ニセモノ夫婦～契約結婚ですが旦那様から甘く求められています～

君のことしか考えられない

　白のスライドドアを、コンコン、と二回ノックする。

「お父さん、入るね」

　声を掛けるけれど返答はない。私は小さく息をつき、ゆっくりとドアを開けて病室の中へと入った。

　点滴に繋がれ、酸素マスクをしている父が眠っている。壁際にあった丸椅子をベッドのそばへと引き寄せ、腰掛けた。耳を澄ませると、微かに寝息が聞こえてきてほっと安堵する。

「お父さん。どう？　まだ眠いのかな。話したいことがあったんだけど」

　――颯馬さんの家に来て今日で二日目。

　朝から起きた予想外の出来事に未だ動揺したまま、私は父の入院する病院を訪れていた。

　ここは静かで落ち着く。父の姿を見ていると、自然と肩の力が抜けた。しかし、静寂に包まれると、どうしても先ほどのことが頭をよぎる。

　あのときの颯馬さん、凄く必死だったな……。

　事は、数時間前に遡る――。