ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「あっ……」

 思わず仰天の声を上げる。

「ここにいたのか」

 わずかに息が上がった颯馬さんはグレーのラフなパーカーに下は黒のパンツ姿で、まるで起きたまま飛び出してきたよう。私は面食らってぽかんと眺めた。しかし、すぐにはっとして大急ぎで口を開く。

「す、すみません。ちょっとスーパーで買い物しようとして家を出たら、戻れなくなっちゃって……」

 私がソファーに置いた袋を指さすと、颯馬さんは一瞬拍子抜けしたように目を丸めてから、はぁーっと盛大に息を吐く。そして、

「……出ていったのかと思った」

 言いながら、颯馬さんは力なく悲しげに笑った。

 胸がどきりと音を立てる。

「違います……! 私、朝ごはんを作ろうと思って。一応すぐ戻るってメモを残してきたんですけど……」

 私は狼狽しながらも必死に告げた。

「メモ?」

 颯馬さんはきょとんとする。

「はい。リビングのテーブルの上に」

 なんとなく気まずくて、私は目を伏せながらぎこちなく笑った。つかの間の沈黙が流れ、あまりの静けさに息の根が止まりそうになる。
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