ニセモノ夫婦～契約結婚ですが旦那様から甘く求められています～

「お父さん。私、結婚するよ」

　父の寝顔に語り掛ける。

　もしかすると驚いて飛び起きるかもしれないと思っていたが、そう上手くはいかないようだ。父は依然、穏やかな寝息を立てている。

　そんな出来事があったあと、私が用意した簡単な朝食をふたりで食べていると、颯馬さんから明日ご両親に会うことになったと聞かされた。

　お昼に、場所は都内でも有名な大きなホテルで食事をしながら話す予定らしい。その顔合わせを終えたあと、私たちは婚姻届を提出しに行くことになっている。その前に、どうしても父には伝えておきたかった。

「相手は颯馬さんっていうの。お父さんが目を覚ましたら、紹介するね」

　こんな状態でも温かい父の手を握りしめる。毎日水仕事をして乾燥した少しざらっとしている手。触れていると、たまらない侘しさに涙ぐみそうになった。

「……お父さん。大好きよ」

　囁いた言葉は、白い壁に囲まれた病室の中で静かに響いた。