ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 * * *

 ――次の日。

 ドアノブを下に下ろし、音を出さないようにこわごわと開ける。しかし、

「準備できた?」

 部屋の前で待ちかまえていた颯馬さんに声を掛けられ、私は「きゃっ」と咄嗟に中へ戻ろうとした。

 だが、それを許さない颯馬さんの手がドアを固定し、私を引っ張り出す。否応なしに晒された私の姿を、彼は頭のてっぺんから足先までじっくりと眺めた。

 その視線にいてもたってもいられなくて、私は隠すように自分自身を抱きしめる。顔がかあっと熱を持った。

「そんなにまじまじと見ないでくださいよ」

 私は微かに震えた声を上げる。すると、颯馬さんは、

「可愛い。君によく似合ってる」

 と、もともと垂れた目尻をさらに優しく下げた。

 あまりに真っ直ぐに言うものだから、私はいたたまれなくなってうつむく。

 視界の中で、プリーツ加工されたピンクベージュのロングスカートがひらひらと揺れる。襟や袖口のリブ使いが印象的なネオクラシックワンピース。可愛らしい印象のスカート部分とは対照的に、ウエスト部分はウエストシャーリングによってキュッと締まっている。女性の魅力を最大限に引き出してくれるような、とても素敵なデザインだ。
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