ニセモノ夫婦～契約結婚ですが旦那様から甘く求められています～

「お父さん？」

　思わず声を掛けた。しかし、父は、

「いや、今日は母さんの命日だからな。よく売れたし、たまには早く店じまいしてゆっくりしようかなってな」

　いつも通り、明るさがこぼれんばかりの笑顔を浮かべる。

「本当？　よく見たら顔も青いような気がするけど。体調は大丈夫なの？」

「あぁ。すこぶる快調だ」

　父は、両方の肩を回して私にアピールする。

「……ならいいけど」

　ここのところ忙しそうだったから、疲れているのかな。お父さんは休みくらいゆっくりしていろと嫌がるけれど、今週末は私も仕込みから手伝おう。

「さぁ、お前も早く着替えて降りてこい。飯にしよう」

　そう言いながら厨房に向かっていた父を慌てて引き留めた。父は驚いた様子で振り返る。

「いいよ。後片付けは私がするから、お父さんは少し休憩してて」

「おいっ」と狼狽える父の手を引き、強引に椅子に座らせる。

「いいから、ここで待ってて」

　私が「ねっ？」と念を押すと、父は困ったように眉尻を下げた。