ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「父や母に知られると色々と面倒だったからな。紹介するまで隠してたんだ」

「そうですか……」

 西留さんは眉間にシワを寄せ、私に冷ややかな一瞥(いちべつ)をくれた。そのあまりの冷たさに、私は思わず息を呑む。

 今の、なに?

 心臓もバクバクと荒々しく打ち始めた。

「お時間をおとりいただき申し訳ございません。遅れるといけませんので、行きましょう」

 彼女はなにごともなかったかのようにマンションの外へ向かう。

 気後れが胸の奥に重く淀んだ。

 気のせいかな。西留さん、私を睨んでいた気がするんだけれど。

「小春、どうかしたのか?」

 呆然としていた私を、颯馬さんが心配そうな顔つきで覗き込んできた。先ほどのことを思い返し、私は反射的に大きく背中を仰け反らせる。
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