ニセモノ夫婦～契約結婚ですが旦那様から甘く求められています～

　紫がかったグレーの着物に身を包むお母様は、まさにやまとなでしこを絵に書いたような人で、視界に入れば、思わず皆が見惚れそうになる清楚な美しさがあった。ふとした身のこなしからも、洗練された上品さが滲み出ている。

　お母様の言葉に、お父様は困り顔でポリポリと頬を搔いていた。

「どうしても早く会いたくて、すまなかったね」

「いえ、そんな……」

　私が打ち消すと、お父様は安堵したように息をつく。そして、

「颯馬から電話で、結婚を決めたと聞いたときは椅子から転げ落ちたよ。ずっと、決まった相手がいる素振りなんて見せなかったからね」

　感慨にふけるように目もとにシワを作っていた。

「父さん、話は食事をしながらにしよう」

　呆れた様子の颯馬さんが割って入ってきた。すると、お父様は「そうだった。すまない。レストランを取ってあるから行こうか」と高らかな笑った。お母様は弱りきった表情のままだったが、内心幸せそうに口角をゆるりと上げてそのやり取りを見つめていた。