ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 はじめて目にするほどの豪華絢爛な空間に、私はさらに身が縮む思いがする。

「ふたりはどこで出会ったのかな?」

 乾杯を終え、前菜が並ぶと、お父様が切り出した。

「会社です。実は、先日まで私も花椿堂にお世話になっていたので」

 はにかみながら告げると、お父様の顔がぱっと明るくなる。

「そうだったのか。それはいい! まさか颯馬が、会社でいい人を見つけていたとはな。でも、先日までと言うことは……」

「派遣社員で、契約が満了になったんだ。いい機会だし、結婚して欲しくてプロポーズした」

 颯馬さんが平然と言った。

 け、結婚して欲しくて……。

 用意された回答だとわかっているのに、耳にするとついつい胸を高鳴らせてしまう。しかし、思っていることが鏡を映すようにすぐ態度に出てしまう私は、代わりに答えてもらえてほっと息をついた。
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