ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 扉の方を見ると、テラコッタのニットに黒のパンツ姿の颯馬さんが、腕を組み、呆れた面持ちでこちらを眺めていた。

「また君は。寒いだろう」

 わずかに眉根を寄せた颯馬さんは、着ていたニットの袖をまくり上げつつこちらに近づく。そして、私の手を取り、

「ほら、やっぱり。ずいぶん冷たい」

 と不満げに唇を結んだ。背後から抱きしめるように手を伸ばしてくる颯馬さんに驚いて目を見開くが、私は慌てて「今汚れているので……!」と手を振りほどこうとする。

 しかし、颯馬さんは、「そんなのかまわないから」と負けじと私の手を包み、お湯を出して温めてくれた。

 かじかみかけていた手に、じわじわと沁みる。

 見上げると、少し屈んでいる颯馬さんの顔がすぐそばにあって胸が高鳴る。

「んっ?」

 優しく笑いかけられて、私は勢いよく顔を背けた。
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