ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「君はここで生まれ育ったんだな」

「……はい。そうです」

 厨房でお茶を入れた私は、颯馬さんと並んでカウンターの席に座っていた。

 横目に見ると、颯馬さんは目を細めてゆっくりと辺りを見渡している。ここに彼がいるのが不思議に思えて、私はなんだか落ち着かずに無意味に湯呑みを掴んでは離す。

「ありがとうございます」

 私が言うと、颯馬さんはとぼけたように小首を傾げていた。

 あの夜から、たしかに店のことが気になっていた。颯馬さんは好きにしていいと言うけれど、父のところへ好きに行かせてもらっているだけで有難かったし、いくら店といえど、私にとって家でもあるこの場所にひとりで帰ってくるのは気が引けた。

 古い考えと思われるかもしれないけれど、仮にも嫁いだわけだし。でも、店の話をしたことなんてなかったのに、どうしてわかったのだろう。

「小春もうどんを打てるのか?」

 突然の問い掛けに、私は間抜けな声を上げた。

 う、うどん?
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