ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「……い、一応は。父の手伝いとか、あとは休みの日に作ったことが何度かあるくらいですけど」

 そう答えると、颯馬さんは「いつか食べてみたいな」と微笑む。

「颯馬さんもうどんお好きなんですか?」

「好きかな。こういう季節には、結構食べる」

「じゃあ今度、ご馳走します」

 私が頬を綻ばせると、颯馬さんはカウンターに頬杖をつきながら、

「楽しみにしてる」

 ともう片方の手で私の頭をなでた。鼓動が速くなる。

 颯馬さんを見ていると、日に日に心が騒ぎ立ってそわそわする。油断すれば、ご両親に会った夜、キスを交したときの記憶が簡単に頭に舞い戻ってきた。

 十日ほどかけてゆっくり整理し終わりそうなところだったのに。

 キスされたのは嫌じゃなかった。それどころか、一瞬、颯馬さんのことをもっと知りたいなんておこがましい感情を抱いてしまった。

 私たちはそんな関係じゃないのに。一度目、ホテルに行く前にされたキスは、緊張している私をからかっているだけだと思っていた。けれど、そのあとのは……?
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