三十路令嬢は年下係長に惑う
食事を終えてセルフサービスのドリンクバーにあったコーヒーマシンから注いだコーヒーの味も悪くは無い。ランチタイムにすいていて、席は居酒屋らしく半個室のようになっているから、長居してのんびりするのは適しているように思えた。
「神保さんって、間藤さんの後輩って聞いたけど」
「鈴佳でいいですよ、はい、そうなんです、というか、入社そのものは私の方が先で、先輩は中途入社なんです」
「それって鈴佳ちゃんが誘って?」
「うー、正しくはタイミング、というか、先輩が入る前にシスの人がごっそり辞めちゃった事があるんですよ」
「そうなんだ」
水都子は、父からも妹からもあまり会社の事は聞いていない、おおまかにどんな事業があるかとか、新規で何かを始める場合は話題にあがる事もあったが、社内で起きている問題や、特に人事については知っている人間もあまりいない為興味が無かった。
もちろん、創業当時から父と共に会社を立ち上げたような面々は幼い頃から面識があったが、だからといって会社内部の話が仮定内に持ち込まれる事はあまりなかった。
システム部門の人間がいっせいに辞めるなどというのはその部分だけ聞いているとただ事では無いように思える。
……そして、そんなシステム部門に配属されるにあたり、妹の真昼はそのような話をいっさいしてくれなかったのだ。
「で、他部門から、元々そっち方面に明るい人に異動してもらったりして、体制をたてなおしている時に、私、先輩に聞かれたんです、お前の会社ってどんな感じなの? って」
「それって既に間藤さんが社内の事情を知っていたって事?」
「そうなんですよ、私も驚いちゃって、で、詳しく事情を聞いたら、先輩、慎夜さんと知り合いだったんです」
「つまり、間藤さんは鈴佳ちゃん経由じゃなくて慎夜……もとい、副社長の声がけで?」
「当時はまだ副社長じゃありませんでしたけど、そうみたいです、で、その後しばらくしてから秘書に真島君をひっぱってきて……」
では、間藤は副社長側という事か、と、水都子は思った。姉弟で派閥も何も無いが、真昼と慎夜はなにかとぶつかりがちだった。どちらかというと、真昼が年長をかさにきて弟を牽制するような部分があり、あくまでも跡継ぎは自分なのだととんがる事が軋轢の原因になっているように水都子には思えた。
片や慎夜の方は姉を押しのけてまで社長をやろうとするような気概は感じられない。しかし、慎夜は慎夜で独特の美学のようなものを持っており、そこのあたりの方針が真昼と一致している時はいいのだが、一度考えが違うとなった場合は姉相手でも一歩もひかないようなところがあった。
「神保さんって、間藤さんの後輩って聞いたけど」
「鈴佳でいいですよ、はい、そうなんです、というか、入社そのものは私の方が先で、先輩は中途入社なんです」
「それって鈴佳ちゃんが誘って?」
「うー、正しくはタイミング、というか、先輩が入る前にシスの人がごっそり辞めちゃった事があるんですよ」
「そうなんだ」
水都子は、父からも妹からもあまり会社の事は聞いていない、おおまかにどんな事業があるかとか、新規で何かを始める場合は話題にあがる事もあったが、社内で起きている問題や、特に人事については知っている人間もあまりいない為興味が無かった。
もちろん、創業当時から父と共に会社を立ち上げたような面々は幼い頃から面識があったが、だからといって会社内部の話が仮定内に持ち込まれる事はあまりなかった。
システム部門の人間がいっせいに辞めるなどというのはその部分だけ聞いているとただ事では無いように思える。
……そして、そんなシステム部門に配属されるにあたり、妹の真昼はそのような話をいっさいしてくれなかったのだ。
「で、他部門から、元々そっち方面に明るい人に異動してもらったりして、体制をたてなおしている時に、私、先輩に聞かれたんです、お前の会社ってどんな感じなの? って」
「それって既に間藤さんが社内の事情を知っていたって事?」
「そうなんですよ、私も驚いちゃって、で、詳しく事情を聞いたら、先輩、慎夜さんと知り合いだったんです」
「つまり、間藤さんは鈴佳ちゃん経由じゃなくて慎夜……もとい、副社長の声がけで?」
「当時はまだ副社長じゃありませんでしたけど、そうみたいです、で、その後しばらくしてから秘書に真島君をひっぱってきて……」
では、間藤は副社長側という事か、と、水都子は思った。姉弟で派閥も何も無いが、真昼と慎夜はなにかとぶつかりがちだった。どちらかというと、真昼が年長をかさにきて弟を牽制するような部分があり、あくまでも跡継ぎは自分なのだととんがる事が軋轢の原因になっているように水都子には思えた。
片や慎夜の方は姉を押しのけてまで社長をやろうとするような気概は感じられない。しかし、慎夜は慎夜で独特の美学のようなものを持っており、そこのあたりの方針が真昼と一致している時はいいのだが、一度考えが違うとなった場合は姉相手でも一歩もひかないようなところがあった。