三十路令嬢は年下係長に惑う
窓口はご令嬢
午後に行った部署内ミーティングで、間藤から水都子と鈴佳のコンビ体制について説明がされ、一旦その形で仕事にあたる事に決まった。鈴佳の業務量の多さについてはシステム部門の他の者達も是正しなくてはと思っていたらしく、すんなりと同意は得られた。

 そうしている間も、席に戻れば対応要求のメモやコールが積まれていて、一度鈴佳と水都子でそれを見て、対応方法を決めた。

 まず、優先度の低そうなものについては後日対応という事で水都子がそれを伝えに各席へ赴く。その間、鈴佳は緊急性の高いものを優先、かつ集中して対応する事にした。

 何故か自分達のオーダーの方が先で、後回しにされた事について不服そうなものもいるにはいたが、

「お疲れ様です、遊佐です」

 いきなり自席に現れた水都子に驚いて声を裏返させたのは開発部門の壮年の社員だった。開発部門といっても、何か作っているセクションでは無い。店舗出店の為の物件サーチを主に行っている部門で、社内で最も平均年齢が高く、いわゆる『おじさん』の多い部署だ。

 彼は本当にささいな事で鈴佳を呼びつけるのが常態化していて、少しでも対応が遅れるとすぐにクレームを入れてくるので有名な人物だった。

 しかし、開発部門は社歴の長い者が多く、つまりは水都子が前社長、現会長の娘である事を皆知っていた。

「え!? あれ? 水都子ちゃん? って、ああ、入社するって聞いてたけど、システム課だったの? てっきり秘書室か経理かと……」

 しどろもどろになった壮年の開発担当は、水都子の父を訪ねて家にも来た事のある人間だった。目下の女性社員を顎でこき使うようなところがあるとは知らなかったが、間藤に言わせると、他の男性システム課社員に対しては下手に出るわりに、鈴佳は女だとあなどるのか、度々高圧的な様子を見せてくるのだそうだ。

「ええ、今はシステム課の方で勉強させていただいています、全部署と関わりが深いセクションですし、それに……」

 少し間を置いて、続ける。

「特にリテラシーの低い方々には個別レクチャーの必要があると感じておりまして、インストラクターは女の方がいいのでは無いかと……男性相手では萎縮して言えないような疑問も、女性相手であれば屈託なく言える方は多いようですから、ね」

 にっこり、と、ほほ笑みを作ると、壮年の男性社員は顔を強張らせた。

 遠回しにではあったが、自分でできる事は自分でしやがれ、鈴佳はお前の雑用係じゃねえんだよ、という気持ちをたっぷりとのせてあった。
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