三十路令嬢は年下係長に惑う
歓迎会会場は、水都子と鈴佳に併せてくれたのか、女性が好みそうな和モダンな内装で、メニューは多国籍な感じの静かな店だった。

「間藤さん何で先来ちゃうかなあ、そこは普通主賓を帰すでしょ、先に」

「やー、こういう店で野郎ばっかりだとなんか落ち着かないですねー」

 出張先から直帰し、会社へは寄らず、事情を知らない中野と白井が間藤を軽く責めるような口調で言った。

「いや、でも、あれは水都子さんが出張ってくれて助かったんですよ? なんていうんですか、あれ、一足触発ってんですか?」

「いっ『そく』しょくはつじゃねえ、一触即発だ、足突っ込んでどーすんだ」

 茶化すように言う目黒に、間藤が冷静につっこむ。

 派遣の鶴見麻衣は基本的に飲み会には参加しない、一応礼儀として声はかけるのだが、子供がまだ小学生という事で、遅くなるような事には参加しないのが基本スタンスらしく、毎度の事ではあったが丁重に断られた。

 目黒は間藤と水都子のやりとりを見ていて、先に行くぞという間藤に連れられて先に来たのだった。

「間藤さんがオツボネ相手に切れそうになるのなんて珍しくねーだろ」

 既に一度乾杯をして、生ビールをちびちび飲みながら白井が言った。

「珍しくないからって放っとくわけにもいかないって思ったんじゃないですか? 水都子さんは」

「そそ、そうやって間藤さんがオツボネ様に冷たくしたとばっちりはみーんなスズさんに皺寄せがいってるし」

 中野と白井が相変わらず畳み掛ける。

「どういう意味だ」

「うわー、気づいてないよこの色男」

 中野が嫌味を言い、説明しようとしたところで、水都子と鈴佳が到着した。
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