三十路令嬢は年下係長に惑う
リビングに戻ると、間藤が落ち着きなささそうに座っていた。
「どうぞ、お休みください?」
聞こえていなかったのだろうか、と、もう一度水都子が間藤に言うと、顔をあげた間藤の瞳と水都子のそれが交差した。
熱をおびたような、うるんだ瞳にどきりとして、水都子は間藤から目がはなせなくなっていた。
「どうですか、仕事は、もう、慣れましたか?」
唐突ではあったが、何か話題を探したのだろう、間藤の言葉に、水都子は返す。
「ええ、鈴佳さんと一緒で、色々助かってます」
「神保も喜んでました、仕事に集中できるようになったって」
「でしたら私もうれしいです、役に立って」
ひとしきり、当たり障りのない会話が進む。
水都子は、温かいものをとりたかくなって白湯を入れた。就寝前であったし、お茶では目が冴えてしまいそうだった。
手をあたためるようにしてマグカップを持ち、一口飲むと、体の中を熱が巡っていく。
「あの」
水都子が言うと、また、間藤の視線が真っ直ぐに自分を見ている事に気づき、どきりとしながら言葉を続けた。
「間藤さんは、鈴佳さんと、その、お付き合い、されてるんですか?」
「いいえ」
きっぱりと間藤が返した。
「あの、でも、皆さんそう思われているのでは?」
水都子が続けると、間藤はため息をついた。
「そういう誤解をされているだろうな、とは思ってましたが、一々自分で否定してまわるのも馬鹿馬鹿しいので放っておいたのがまずかったかな、なんだったら神保を起こして否定させましょうか」
怒ったように言う間藤に、あわてて水都子はそれはやめてあげて欲しいと言うと、間藤はすねたように腕を組んだ。
「……あなたの方こそ、ずいぶん神保と仲良くなりましたね」
「それは、組んでやってますし、鈴佳さんは楽しい子ですし」
「……ところで」
急に話題を遮るようにして間藤が切り出した。
「もうすでに、別のどなたかと付き合っているんですか? 貴女」
「随分と突然ですね、いえ、今は仕事を覚えるので精一杯で」
「でも、男性用シャンプーや……こうして、着替えまで」
「それは、慎夜のです」
「副社長の?」
「慎夜のシャンプーだけじゃないですよ、真昼の化粧水も洗面所にはあります、この部屋、会社に近いので、時々来るんです、それこそ、今日みたいに飲み会で遅くなった時とかに」
一息に水都子が言うと、間藤は拍子抜けしたようにため息をついた。
「ああ、そうか……、そう、ですよね、確かに、おっしゃる通りだ」
間藤の顔が、羞恥心のせいか、赤くなっていた。
「おかわり、いりますか? 持ってきます」
からになっているグラスを見て、立ち上がろうとした水都子の腕を、間藤が掴んだ。
「あの……」
「なんというか、その、精神衛生上悪いので、言ってもいいですか」
真面目くさって間藤が言うので、
「なんの事でしょう」
と、水都子が答えると、
「今、好きな男性は、いますか」
「え……」
水都子が答える前に間藤が言った。
「俺、あなたの事が好きです」
「どうぞ、お休みください?」
聞こえていなかったのだろうか、と、もう一度水都子が間藤に言うと、顔をあげた間藤の瞳と水都子のそれが交差した。
熱をおびたような、うるんだ瞳にどきりとして、水都子は間藤から目がはなせなくなっていた。
「どうですか、仕事は、もう、慣れましたか?」
唐突ではあったが、何か話題を探したのだろう、間藤の言葉に、水都子は返す。
「ええ、鈴佳さんと一緒で、色々助かってます」
「神保も喜んでました、仕事に集中できるようになったって」
「でしたら私もうれしいです、役に立って」
ひとしきり、当たり障りのない会話が進む。
水都子は、温かいものをとりたかくなって白湯を入れた。就寝前であったし、お茶では目が冴えてしまいそうだった。
手をあたためるようにしてマグカップを持ち、一口飲むと、体の中を熱が巡っていく。
「あの」
水都子が言うと、また、間藤の視線が真っ直ぐに自分を見ている事に気づき、どきりとしながら言葉を続けた。
「間藤さんは、鈴佳さんと、その、お付き合い、されてるんですか?」
「いいえ」
きっぱりと間藤が返した。
「あの、でも、皆さんそう思われているのでは?」
水都子が続けると、間藤はため息をついた。
「そういう誤解をされているだろうな、とは思ってましたが、一々自分で否定してまわるのも馬鹿馬鹿しいので放っておいたのがまずかったかな、なんだったら神保を起こして否定させましょうか」
怒ったように言う間藤に、あわてて水都子はそれはやめてあげて欲しいと言うと、間藤はすねたように腕を組んだ。
「……あなたの方こそ、ずいぶん神保と仲良くなりましたね」
「それは、組んでやってますし、鈴佳さんは楽しい子ですし」
「……ところで」
急に話題を遮るようにして間藤が切り出した。
「もうすでに、別のどなたかと付き合っているんですか? 貴女」
「随分と突然ですね、いえ、今は仕事を覚えるので精一杯で」
「でも、男性用シャンプーや……こうして、着替えまで」
「それは、慎夜のです」
「副社長の?」
「慎夜のシャンプーだけじゃないですよ、真昼の化粧水も洗面所にはあります、この部屋、会社に近いので、時々来るんです、それこそ、今日みたいに飲み会で遅くなった時とかに」
一息に水都子が言うと、間藤は拍子抜けしたようにため息をついた。
「ああ、そうか……、そう、ですよね、確かに、おっしゃる通りだ」
間藤の顔が、羞恥心のせいか、赤くなっていた。
「おかわり、いりますか? 持ってきます」
からになっているグラスを見て、立ち上がろうとした水都子の腕を、間藤が掴んだ。
「あの……」
「なんというか、その、精神衛生上悪いので、言ってもいいですか」
真面目くさって間藤が言うので、
「なんの事でしょう」
と、水都子が答えると、
「今、好きな男性は、いますか」
「え……」
水都子が答える前に間藤が言った。
「俺、あなたの事が好きです」