三十路令嬢は年下係長に惑う
間藤が連れてこられたのは、先日鈴佳と泊まった水都子の部屋だった。

「じゃあ、神保さんは俺らが送っていくんで、後はお好きに」

 そう言って、慎夜と真島、鈴佳の三人が去ると、部屋には水都子と間藤の二人が残された。

「えーっと、これは、どういう事なのでしょうか……」

 水都子のベッドに横たわる間藤が、困惑したように、横にいる水都子に尋ねた。

「しばらく、私の家に住んでもらいます、……怪我が治るまで」

「え……」

 赤面する間藤に、あわてて水都子が否定した。

「かっ、勘違いしないでッ! その、間藤さんの住環境が病人には適さないからの、緊急避難です、この部屋だったら会社までは徒歩で行けますし、すくなくとも、あの半地下よりは空調もマシだと思います」

 もちろんそれは控えめなたとえだった。間藤の部屋と比べれば、たいていの部屋は健康によい環境といえるだろう。

「……けど、そこまでしてもらうわけには……」

「ぐだぐだ言わずに、休んで下さい、あなたの一番しなくてはならない事は体を治す事です」

 きっぱりと言う水都子に、怒られる事を心地良いと感じながら、間藤は眠る事にした。
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