三十路令嬢は年下係長に惑う
再会
「朝礼で挨拶していただいてもいいですか?」

 人事の上田が向かえにくると、神保は自分の席へ戻って行った。上田と共に移動しようとしたところで、受付のあたりがざわついている事に気づいた。

 受付の横に勤怠システムがあるようで、入社した数人がたまっているのとは他に、受付にいた女性社員が、誰かを捕まえて話をしている。女の方の耳障りなキンキン声とが聞こえてきた。

「やだー、徹夜なのぉ? やー、お疲れ様ぁ、本ッ当ブラックだよね〜、ウチ」

「こっちは納得してやってるし、ちょっと顔出したら今日はあがる、別にブラックってわけじゃない、朝っぱらからデカい声だすな、うるせえ」

 話の相手と思われる男性は、背後にもう一人連れていて、もう一人の方は今にも眠ってしまいそうなほどにふらふらしている。

「何よぉ、こっちは心配して言ってあげてるんだから」

「いらねーからそういうの、本当、黙ってろ」

「どっちもうるさいよ」

 言い合っている二人に割って入るようにして上田が声をかけた。

「もう朝礼始まるから、あと坪井さん、入り口のボード出てないよ、朝礼始まる前に出してきて」

「えー、あたしじゃないよ、由紀ちゃーん」

 受付カウンターに置いてあるパンフレットの補充をしているもう一人の受付担当に声をかける様子に上田は眉をひそめたが、それ以上の追求はせずに、水都子を誘導するように見た。

 しかし、水都子の方は硬直して、動けずにいた。

 受付の女性と軽く言い合いになっていた男性社員をじっと見つめている水都子に、上田が声をかけた。

「……水都子さん?」

「あ、いえ、何でもありません」

 あわてて水都子は上田の後についてその場を離れた。

 受付の女性社員と言い合っていた男性、それは、あの結婚式の時のカメラマンだったのだ。

 男の方も、上田が連れていた女性、水都子を覚えているようだったが、水都子ほどには驚いてはいないようだった。

 受付の女性は、足を止めた水都子が気に成っているようだったが、念を押すようにキッと睨みつける上田から逃げるように、言われた事をやるために立ち上がった。
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