三十路令嬢は年下係長に惑う
水都子さんには敵わない
坪井が異動し、程なくして間藤は課長へ昇進。受付は二人体制から一人にはなったが、なかば足をひっぱるようだった坪井が居なくなって、かえって効率は上がっているという。

 水都子としては、自分も坪井のように頑なに仕事に固執し、周囲に迷惑をかけていたのかもしれないと思い返すと、どうにも複雑な気持ちになるのだが、坪井にも、人生の転機となるような事があれば、と、祈らずにはいられなくなる。……偽善かもしれないのだけれど。

 そして、水都子はというと。

「短い間でしたが、お世話になりました」

 水都子の歓迎会をしたのと同じ店で、今日は間藤の昇進祝いと、水都子のお別れ会が開催されていた。

「いいじゃないですかー! 水都子さん残ったってー、寂しいですよー!」

 全員からキツくやめろといわれた鈴佳は、今日は酒を飲んでいない。飲んではいないが、どう考えても酔っているような様子で水都子に絡んでいた。

 結局、水都子は退職する事になった。

 年齢と、妹に対する意地のような部分で仕事をしていたところもあった。適性が無いのはずっとわかっていた。しかし、女といえど、仕事を持って働くべきだと、ずっと思ってはいたのだ。

「ありがとう、鈴佳さんにそう言ってもらえるだけでうれしい」

 自分は、多分鈴佳や真昼のようには成れない、気づくのに時間はかかったが、意地を通し続けなくてよくなり、今は肩の荷が降りたような気持ちだった。

「よっ、逆玉の輿!」

「にくいよ! 色男!」

 同じテーブルでは、水都子と鈴佳のやりとりに反して、男性陣が間藤をめいっぱいからかっていた。

「うるさい、うるさい、うーるーさーいーーーーーー!!!」

 間藤がムキになって言い返すのがおもしろくて、中野と白井がからかってくるのだが、ついに切れた間藤が反撃に出ていた。

「俺は知っている、知っているぞ! 二人とも、人事課女子と付き合っているだろう、平日に休み合わせていてわからないとお思ったか!」

「ぎゃー! それを言われるとッ」

「だから俺こそ抜け駆けだ! お前ら結婚する時、部長のところには一人で行けよ!」

「ああっ、それを言われると……」

「ごめんなさい、係長、いや、課長〜」

 三人のやりとりを見て、水都子は驚いていた。

「え……そうなの? 知らなかった」

 鈴佳に尋ねると、

「そうなんですよ、ウチの男性社員四人中三人が社内恋愛のうえ、ウチ二人は人事課なんです、ま、私は関係ないですけどね」

 そう言う鈴佳は既に入籍は済ませている。実は給与振込口座等の名前は変わっているのだが、アカウントの切り替えが面倒なんで、諸々名前を変えるのは年度切り替わりの新卒が入るタイミングにします。と、システム管理者らしいのからしくないのかよくわからない事を当人は言っていた。自分の苗字にはやはり愛着があるようだ。
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