三十路令嬢は年下係長に惑う
間藤の仕事が忙しいという事もあり、新居というか、水都子のマンションでの二人暮らしが新生活のスタートになるわけだが、結局あの怪我以来、居着いてしまった間藤と水都子は、慣れた道のりを歩いて帰宅していた。

 盛り上がった皆は二次会に行くと言っていたが、二人は帰宅する事にした。

「主賓無しの二次会ってありなのかな……」

 ぶつくさ言いながら、間藤は水都子と手を繋いでいる。

「やっぱり、参加したかった?」

 水都子が言うと、間藤はぶるるとかぶりを振った。

「ずっと出張で、久しぶりに二人きりなんだから、もう一刻も早く帰りたい」

 あけすけな物言いに水都子が赤面すると、からかうように間藤が言った。

「ああ、そのギャップがいいんだよねえ、萌える」

「辞めて」

「すっごい初心っぽいのに、けっこう……」

「怒るよ?」

 水都子が笑顔で言うと、間藤が水都子の肩を抱き寄せた。

「やっぱり、何だか貴女には敵わない気がする」

 そう言って、間藤は水都子を抱き寄せて、唇にふれるだけのキスをした。

「水都子さんには敵わない!」

 そんな風にいらずらっぽく確信犯めいて笑う間藤を、結局許してしまうのだ、自分は、と、思いながら、二人手をとりあって、足早に部屋へと急いだ。

 じれていたのは、水都子だって同じだ、と、思いながら。

 今度の結婚式は、黒の裾引きに角隠しになる予定だった。

「もうウェディングドレスは見たしね、着物もいいかも、あー、そのまま初夜……は、さすがにまずい、よね?」

 などと言う間藤に、水都子は笑って腹パンなどしたりする。気楽だけれど、居心地のよい場所を、水都子は見つけたのだ。

(終わり)
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