三十路令嬢は年下係長に惑う
朝礼で挨拶をし、同じ部署になる予定のシステム課の面々に引き合わされたものの、神保鈴佳と、係長と名乗った間藤理仁(まとうりひと)と、受付で眠りそうになっていた目黒翼(めぐろつばさ)は夜勤明けという事で、自己紹介を終えるとすぐに帰宅準備にかかっていた。

「まあ、詳しい事はまた明日」

 あくびを噛み殺しながらそう言う間藤は水都子があの時の花嫁である事に気づいているのかいないのか、特別な様子は見せない。

 部署の人間への紹介と水都子自身の自己紹介を終えると、システム課の島は人が半分減ってしまい、間藤の向いで神保の隣でもある席は、ぽつねんとして、手持ち無沙汰な事この上なかったが、支給されたノートパソコンの設定や、社内イントラなどを読んでいると、昼休みの時間になってしまった。

 三人が帰宅してしまったシステム課に残っているのは水都子と他に三人。女性が一人と男性が二人。女性は契約社員だという鶴見麻衣(つるみまい)と、男性二人は中野孝宏(なかのたかひろ)と白井智昭(しらいともあき)。

 会長の娘で社長副社長の姉である水都子との距離を図りかねているようで、水都子も自分の方から声をかけていいものか迷っていた。

 まさか初日からこんな展開になるとは思えず、心構えがなっていなかったと思っていると、真昼がやってきて声をかけた。

「遊佐さん、お昼行こ」

「あ、でも……」

 水都子が同じ島にいる三人を見回すと、

「どうぞ、行ってきてください」

 一番年長らしい白井が言った。どうやら白井達も声をかけるのをためらっていたようで、表情には『助かった』というのがあからさまに浮かんでいる。

 水都子は、少し薄情なのではと思ったものの、水都子自身も救われた気持ちがあったので、今日のところは皆の配慮に甘える事にした。

「すみません、じゃあお先に」

 そもそも配属初日で何の仕事も割り振られない立場の水都子はもてあまされていたのだ。前の会社でも使っていた小さなランチタイム用のミニトートバッグに必要なものだけを放り込んで水都子は真昼と共に会社を出た。
< 7 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop