三十路令嬢は年下係長に惑う
「何食べる?」

 傍目に見ると、いかにもキャリアウーマンな真昼と、コンサバな水都子が並んでいると、ごく普通の仲良しOLにしか見えないのだが、片方は社長なのだ。

 水都子は父の会社に入るつもりは無かったし、どうにも令嬢扱いされる事に慣れないが、妹はどうなのだろう、聞いてみたかったが、水都子が切り出すより先に、真昼はとっとと店を決めて席に着いた。

 そこは、会社から少し歩いたところにあるビストロで、少し時間が早いせいか、比較的席はまばらだった。

「真昼ちゃん、いつもこんなところでご飯食べてるの?」

 ランチメニューを眺めながら、水都子が言った。

「やー、いつもはゆっくり外ランチとかしてる時間ないもん、誰かに買ってきてもらったり、移動中にぱぱっとすませちゃうよ、今日はお姉ちゃんがいるから、特別ね」

「ああ、だからちょっと歩いたの?」

「まーね、それもあるかな、誰も来ないとは思うけど一応」

「別に聞かれて困る話ってわけでもないでしょう?」

「そうだけど、やっぱ社長の私がお姉ちゃんとか呼んでる相手が社内にいるってのはさ」

「やっぱり、私入社するべきじゃなかった?」

「いやいや、そういうわけじゃないけど、今ちょっと、その」

 真昼が言葉を濁したところでお冷が運ばれてきた。各自注文をしたところで、思い出したように真昼が続けた。
 
「間藤には会った?」

「来てすぐ帰ったけどね、若いけど、係長は彼なの?」

 水都子は、中止になった自分の結婚式で会った男だという事を言えないままでいた。

「システム課は技術職っぽいところもあるからねえ、さらに仕切れる管理職がいないから長いこといろんな部署を転々としててさ」

 どうも間藤は年齢にそぐわず優秀な様子が真昼の口ぶりから伺えた。

「慎ちゃんじゃダメなの? 得意じゃない、パソコンとか、データ分析とか」

 弟の慎也は工学部に進学していた。情報処理についてはそれなりに収めているはずであったし、今は副社長なのだ、水都子から見れば、水都子をひっぱるまでもなく、姉弟で協力して会社を盛り立てていくものだとばかり思っていたので、水都子の出番は無いだろうと思っていたのだ。

「そうれはそうなんだけど、慎夜は放っとくとすぐに仲良しでチーム組みたがるから今はまだダメ、真島一人で充分」

 そういえば、慎夜が現場研修時代の同僚だったという真島夏樹も既にポラリスリゾーツに入社しているはずだった。真島の入社に真昼はあまりいい顔をしていなかった事を覚えている。
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