今でもおまえが怖いんだ
直樹君も注文を決めて、オーダーをする。そうして待っている間にも他愛もない会話が続いた。

「なおき君って、部活何やってたんだっけ」

あまり筋肉質過ぎるわけでもなく肌が浅黒いわけでもなく特徴的ではない体つき。ラグビーやバレーやバスケでないことは分かっていた。

「中高サッカー部。大学もフットサルサークルだったよ」

頬杖をついたままで直樹君は私と目を軽く合わせる。

「野球選手本気で目指してたのは小学生までかな。なんか途中で目覚めちゃったんだよね。体育の時間かなんかでさ、サッカーの方が楽しいじゃんってなって。あとほら、イナズマイレブン」

懐かしいアニメのタイトルを聞いて、私はああ!と思わず少し大きな声をあげてしまった。

観てたーと言うと、でしょー?と彼は歯を見せて笑う。
絶対にとうこちゃんはイナイレ好きだと思ってたんだよね、なんて褒めてないだろうなってことを言われて私も肩をすくめる。

「あれ俺らが中学生の時だよね。GOじゃない方。ハマっちゃって」
「超次元サッカー?」
「うん、でも当時動画とかで再現のとか上がってたから俺もちょっと夢見ちゃったよね」

カメハメ波の練習よりも無謀なのに、と私が笑うと「でしょ?」と彼もおかしそうに笑う。

でもあの時は友達と一緒になってガラケー構えてさ、本気で頑張ったんだよ俺。
なんて当時のことを語る彼はいつも以上に幼い表情だ。
時々心底から、可愛いなと思うことがある。

牛丼を食べたり、小さい頃のことを話したり、帰り道にコンビニに寄って飲み物を買ったり。そういう何でもないことをずっと求めてきたのだと思う。

私はただ、普通の人になりたかった。彼のように、普通の人に。
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