今でもおまえが怖いんだ
彼は仕事に区切りがついたらしく、USBの中にデータを移してパソコンを閉じた。
それからスマホで時間を確認して、「飯でも行きますか」と少し優しい声で言った。
時刻は23時を回っていて、これから行って開いているお店といったら多分いつものラーメン屋だろう。
支度しようとする私に、彼は「車回して来るから待ってて」と言う。
外寒いから、まだここにいなよと言って、自分は煙草の匂いが染みついたウィンドブレーカーを着て電子レンジの上に重ねて置かれていた車と部屋の鍵を摘んだ。
玄関に置かれている真っ赤なアディダスのスニーカーを素早く履いて、彼は部屋を出て行った。
シューズラックにはまだ、彼の靴が残されている。
この靴が一つもなくなった時全部終わるのだろうと考えている。
『最後の一葉』みたいに、怯えながら過ごさなくてはならなかった。次々となくなっていく彼の私物に不安を覚えたままでいる。
別れてからも彼はとても優しい。
露骨に態度を変えることもない。
普段ぶっきらぼうなのにちょっと大きな笑い声、クシャっと崩した照れたような笑顔、通り過ぎる時に軽く髪を撫でてくれる手の温かさ。何も変わらないのに、すべてここにあるのに、ゆっくりと離れていくことが分かっている。
私を傷付けないように今まで通り優しいままでそれとなくフェードアウトしていこうとすることが分かってしまった。
それからスマホで時間を確認して、「飯でも行きますか」と少し優しい声で言った。
時刻は23時を回っていて、これから行って開いているお店といったら多分いつものラーメン屋だろう。
支度しようとする私に、彼は「車回して来るから待ってて」と言う。
外寒いから、まだここにいなよと言って、自分は煙草の匂いが染みついたウィンドブレーカーを着て電子レンジの上に重ねて置かれていた車と部屋の鍵を摘んだ。
玄関に置かれている真っ赤なアディダスのスニーカーを素早く履いて、彼は部屋を出て行った。
シューズラックにはまだ、彼の靴が残されている。
この靴が一つもなくなった時全部終わるのだろうと考えている。
『最後の一葉』みたいに、怯えながら過ごさなくてはならなかった。次々となくなっていく彼の私物に不安を覚えたままでいる。
別れてからも彼はとても優しい。
露骨に態度を変えることもない。
普段ぶっきらぼうなのにちょっと大きな笑い声、クシャっと崩した照れたような笑顔、通り過ぎる時に軽く髪を撫でてくれる手の温かさ。何も変わらないのに、すべてここにあるのに、ゆっくりと離れていくことが分かっている。
私を傷付けないように今まで通り優しいままでそれとなくフェードアウトしていこうとすることが分かってしまった。