今でもおまえが怖いんだ
下りてきて、と彼からメッセージが入る。私は玄関のサンキューマートで買ったサンダルを引っかけて外へと出る。階段の下には旧型のビートル。2019年を持って生産が終了することを教えてくれたのは確か利久さんだった。
助手席のドアを開けて乗り込むと、かなりの小さな音量で民放のラジオがかかっていた。
これ消した方が良い? なんか音楽違うのかける? と聞いてくれる利久さんに、私は無言で首を横へと振る。
私がシートベルトをつけるのを確認すると、利久さんは車をゆっくりと発進させた。
彼が安全運転だというのは、職場内でも結構な話題だった。
利用者の送迎の時にドライバーさんの都合が付かないと、正社員のうちの誰かが代わりに車を出すことになっていた。
社用車の運転に慣れている社員は少なくて、速度制限で捕まったり細い道で擦ってきたり、道を間違えて利用者を乗せたまま1時間以上迷子になるアクシデントが多発した。
ドライバーさん不在の時は皆、まっ先に利久さんを探して内線をする。
利久さん送迎お願いします、と電話口で早口に伝えると、利久さんは駆け足で上の事務所から降りてきて、ウィンドブレーカーを羽織りながら「じゃあ行ってきますね」と誰とも目線を合わせずに外へ走り出ていくことが多かった。
上の人だから多忙。あまり頼ってはいけないのだけれど頼りになる人。事務の中では1番話が通る人。
現場と事務の間には大きな壁がある施設で、現場の私たちは事務に対して酷い劣等感を抱いていることが多かった。
事務もまた事務で圧倒的なパワハラを発揮していて、だから現場スタッフの出入りはとても激しい。
私も耐えきれずに出て行ったうちの1人だ。
助手席のドアを開けて乗り込むと、かなりの小さな音量で民放のラジオがかかっていた。
これ消した方が良い? なんか音楽違うのかける? と聞いてくれる利久さんに、私は無言で首を横へと振る。
私がシートベルトをつけるのを確認すると、利久さんは車をゆっくりと発進させた。
彼が安全運転だというのは、職場内でも結構な話題だった。
利用者の送迎の時にドライバーさんの都合が付かないと、正社員のうちの誰かが代わりに車を出すことになっていた。
社用車の運転に慣れている社員は少なくて、速度制限で捕まったり細い道で擦ってきたり、道を間違えて利用者を乗せたまま1時間以上迷子になるアクシデントが多発した。
ドライバーさん不在の時は皆、まっ先に利久さんを探して内線をする。
利久さん送迎お願いします、と電話口で早口に伝えると、利久さんは駆け足で上の事務所から降りてきて、ウィンドブレーカーを羽織りながら「じゃあ行ってきますね」と誰とも目線を合わせずに外へ走り出ていくことが多かった。
上の人だから多忙。あまり頼ってはいけないのだけれど頼りになる人。事務の中では1番話が通る人。
現場と事務の間には大きな壁がある施設で、現場の私たちは事務に対して酷い劣等感を抱いていることが多かった。
事務もまた事務で圧倒的なパワハラを発揮していて、だから現場スタッフの出入りはとても激しい。
私も耐えきれずに出て行ったうちの1人だ。