今でもおまえが怖いんだ
テーブルの上に、鍵が置かれる。

「残念だとぼくは思っているよ」
あの日と同じことを彼は言った。

「仕事でフられただけでもぼくのプライドは充分に傷付いていたのに、こんな形でまた捨てられちゃうなんて」

差し出された鍵を私は黙って受け取った。
この期に及んで往生際の悪いことはしたくなかった。
自分がみっともないことはしたくなかった。

「捨てるってことに、否定はしないんだね」

答えなんて聞く気もないくせにまた責めるような強い口調だ。
正面から睨まれてしまうと私は身動きも取れないまま、一言も発せない。

言いたいことはたくさんあった。悔しいとか悲しいとか寂しいとかいろんな気持ちが入り混じる。

こんな簡単に終わってしまうものだったなって、この人より前の人たちとの恋愛を思い出していた。
甘い言葉をたくさんくれてたくさん甘やかしてくれるクセに、別れる時だけは冷たい目で私のことを見るんだ、皆。
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